ブーケ・リハーサル
　楽しい一日だったはずが、最悪の一日になった。重たい荷物を持ちながら、空を見上げた。やばい泣きそう。

　鞄から小さな振動を感じた。スマホを取り出すと、副社長からだった。

　切ってしまおうかとも思った。でも、勝手に帰ってしまったことも、失礼なことをしてしまったことも謝りたかった。

「もしもし」
『由梨、やっと電話に出てくれた。今どこ？』
「家です」
『随分、騒がしい家だね。車の音が聞こえるよ』
「テレビじゃないですか」
『それにしては随分と鮮明な音だね。今、外にいるんでしょ？』
「家ですよ。今日は勝手に帰ってすみませんでした。あとドレスを選んでくれてありがとうございました。それと恋人のふりをさせてしまいすみませんでした」

　最後のほうは声が震えてしまった。

『泣いてるの、由梨？』
「泣いてません」
『由梨』
「泣いてません。大丈夫です」
『由梨』

　副社長が何度も優しく私の名前を呼ぶから、涙が止まらなくなり、居場所を言ってしまった。

　駅前のコーヒーショップで待っていると、副社長がやってきた。
< 51 / 58 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop