ブーケ・リハーサル
「由梨、見つけた」

　目元が赤くなった私を見て、副社長は乱雑に頭を撫でた。そしてボストンバッグと私の手を掴んで、コーヒーショップを出た。

　コインパーキングに停めってあった車に乗せられる。

「アパート、大変だったね」
「はい」

　どこへ向かっているかも分からないまま、車は目的地に着いた。そこは副社長のマンションだった。

「ほら、上がって」

　部屋に上がるのをためらっていると「取って食ったりしないから」と言われた。

　靴を脱ぐとそのままバスルームに荷物ごと押し込められた。

「とにかくお風呂に入って温まって。あるもの好きに使っていいから」

　ドア越しに副社長が言った。

　もう、考えるのも面倒でシャワーを浴びて、ボストンバッグから着替えを出して着た。

「あの、お風呂ありがとうございます」
「コーヒー、どうぞ」

　副社長は二人掛けのソファの左側を開けている。そこに座りマグカップを受け取った。

「お腹空いてない？」
「大丈夫です」
「そうか。会社の同僚って言ってた人、昔の恋人？」
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