あなたしか愛せない~皐月お兄ちゃん編~
連れて行かれた場所は、公園内にある鉄棒の前。
鉄棒で二人で遊ぶのか?
「あのね、私の名前は夏帆…お願いがあるんだけど」
もじもじとしながら夏帆が聞いてくる。
「…お願い?」
心のどこかで諦めがつきはじめた。
「今度、体育で逆上がりのテストがあるの。それで…私できなくて…」
だから、鉄棒の前まで連れてきたのか。
「皆ができてるのに私だけできないのは嫌だから、ここで練習してたんだけど…どうやってもできなくて」
逆上がりのテストか…懐かしいな。
しかも、ちょうど俺の担当教科だ。
「いいよ。教えてあげるよ」
「本当!!!??」
夏帆のもじもじしていた表情が、ぱぁっと明るくなった。
「私できるようになる!??」
「もちろん」
これから教員に採用されたら、こうやって生徒に教えることになる。
小学生じゃなくて、高校だけど。
「やった!!ありがと、お兄ちゃん」
「皐月だよ、俺の名前」
「皐月お兄ちゃん!よろしくお願いします!!」
満面の笑みで夏帆が言った。
そんなに嬉しいのか…
そっか…
さっきまでモヤモヤとしていたのが、晴れたような気がした。