あなたしか愛せない~皐月お兄ちゃん編~
夏帆が、高校の制服を見せに家に来た。
「皐月お兄ちゃんと同じ学校に入学する予定だったのに…」
家に来てからずっと、そんなことをブツブツと言い続けている。
夏帆には、まだ伝えていない。
今日、この日に伝えようと思っていた。
「…夏帆」
名前を呼ぶと、こっちを見た。
目が合った。
この時だけは目を逸らすわけにはいかない。
「俺、結婚することになった」
本当は違う。神戸とは付き合っているだけ。
けど、このぐらい言わないとあの約束は消せないと思った。
「後、夏帆が入学する高校に赴任することになったから。学校で気安く話し掛けんなよ?今後は、家に来るのもなしな」
真ん丸な目をさらに丸くして茫然としている夏帆に、追い打ちをかけるように言った。
「な…なによ」
肩を震わせ俯いてしまった、夏帆。
…泣くか?
「ふざけんなー!!勝手なことばかり言うなー!!!」
耳が痛くなるほどの大きな声で叫び、家を飛び出して行った夏帆。