あなたしか愛せない~皐月お兄ちゃん編~
教室の前まで来ると、生徒たちと話している神戸の後ろ姿が見えた。
「神戸先生!」
声を掛けると、振り返った。
「…あ」
思わず小さな声で出てしまった。
神戸と一緒に話していた生徒は、夏帆と寺田。
夏帆と目が合うと、パっと逸らされた。
そして逃げるように教室の中へ行ってしまった。
…やっぱり、そうだよな。
「有岡先生、どうしたんですか?」
「え…」
ぼーっと夏帆のいなくなった場所を見ていると、神戸が顔を覗き込んできた。
「あ…あぁ。職員会議が早まったのでってことを伝えに…」
じーっと目を見られる。
「…神戸先生?」
何故かドキドキしてしまう。
「わかりました」
神戸は笑顔でそう言うと、視線を外した。
ほっとしてしまう。
「有岡先生は1限の授業はあるんですか?」
「今日はないですけど」
「私もなんです。ちょうど良かった。生徒のことで相談したいことがあるので、SHR終了後に私の準備室まで来てくれますか?」
生徒のことで?
「…いいですよ」
まさか、夏帆のこと?
「良かった。では、また」
いや…気付いてないはず…
気付いていたら、神戸のことだからもっと早く追及してくる。