あなたしか愛せない~皐月お兄ちゃん編~
俺は自分のことばかり考えていて、夏帆のことなど考えていなかった。
夏帆の想いをー…
「夏帆っ…!!」
追いかけようとしたが、背後から腕を掴まれた。
「…夏帆って名前で気になっていたけど、まさかあの生徒が2年前の子だったのね」
神戸が腕を離してくれない。
「神戸…俺はー…」
「追いかけてどうするの?出て行ったあの子は皐月のことを、女として好きなのよ?その想いに答えられるの?」
「…知ってるよ。だから俺はー…」
「よく考えて!皐月は今、教師なのよ!!で、あの子は15歳!高校生!生徒なのよ!!!」
神戸の言葉が胸に刺さる。
自分が今まで気にしていたこと。
「…わかってるよ。何度も悩んだ、何度も自分に問いかけた。その答えはいつも同じで、夏帆と距離を置くこと。約束をなかったことにすること。夏帆の純粋な想いを無視すること」
そうすることで、自分の立場や世間体を守ってきた。
「けど、俺はもう夏帆を傷つけたくないんだ」
守るものを間違えていたと、あんな泣かせ方をさせてしまってから気付いた。
「俺が守るのは、夏帆だ。これからは、俺の立場からも世間体からも守る」
腕を掴んでいた神戸の力が弱くなった。