ずっと前にね
そこにはざっくりとした感情しかなかった。よく分からないけれど、悲しい。嬉しい。楽しい。苦しい。不器用な感情が心の中に出てきては堪えきれずに現れる。

「部屋の外で待ってるから、着替えろ。な?」

よく分からないけど流れる涙を拭きながら、立ち上がる千里。俺は千里が自分の荷物の許へ行ったのを確認してから部屋を出た。そして、扉の前で着替え終わるのを待つ事にした。
ただ驚いた事が1つ。フッと目線を右に向けると健たちが壁にもたれ掛かっていたんだ。通りすがった古川によると、俺と千里が出てくるのをずっと待ってくれていたらしい。いや、きっと待っていたのは俺ではないんだろう。千里が心配で、一緒の部屋にいた俺は次いでという所だろうな。
健が朝、不機嫌であるのはいつもの事だ。でも、叶多まで無愛想になるのは意外だな。出てくるのがあまりにも遅くて機嫌を損ねたか。子供じゃあるまいし。いや、高校生だしまだ子供に入るのか。
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