ずっと前にね

しばらくして車が止まった時には私の仕事の時間だった。先生のお母さんに電話をかけようとしたけれど、しなくて良いと止められた。

「今日は休ませると言ってある。ちょっと来てくれ」

柏崎先生は助手席の扉を開けて私の手を握ると外へ出させた。そして、車の鍵を閉めるとそのまま歩き始めたんだ。柏崎先生の愚痴を聞く時によく来ている森の中。歩きなれている道だったから何とかなったけれど、足早にどこかへ向かう柏崎先生についていこうと必死だった。
一体、どこへ向かっているのだろう。一体、何をしようとしているのだろう。色んな考えが頭をよぎるけれど、正解だと思えるものは何一つ出てきてくれなかった。
それにしても、先生は最初から私を仕事に出す気はなかったんだ。私が無理をしてでも出る事を知っていたから。自分の気持ちより子供たちの事を考えて甘えないと知っていたから。私の事を分かっているから今日は最初から休ませるつもりだったんだ。