ずっと前にね

何か返さなきゃいけないのにそれすら出来ないんだ。してあげられるはずなのに躊躇っては彼女に無理させてしまっているんだ。

「千里。俺はさ」

終いには大きな瞳で俺を見上げる千里を卑怯だと思っている。だって、そんな純粋で綺麗な瞳で見上げられたら胸が高鳴らずにはいられないんだから。
次の言葉をまた失ってしまった。分かってる。後は好きだと言うだけだという事くらい。でも、その一言が難しいんだ。その一言がどれほど大きな物か。
健たちが言うようにさらりと言えれば苦労しないんだよ。他愛のない世間話や愚痴を言うくらい簡単な言葉なら俺だって今すぐに言えるさ。
どうして好きだ、愛しているという言葉は他の言葉と違ってここまで特別なんだろう。どうしてこれほどまでに勇気や体力、精神力など色んな力が必要なのだろう。ありがとうとか挨拶と一緒で、同じ言葉だろう。