ずっと前にね
「何で柏崎先生が持っているんですか・・・?」

ギターを抱えたまま、上目遣いで俺を見上げてくる彼女にやられた。この顔は卑怯だろ。ときめかずにはいられなかった。赤くなった顔が見られないように抱き締めてしまいたい気分だ。けれど、抱き締めれば確実に俺は嫌われる。軽蔑の眼差しで見られるようになってしまう。デートしているみたいに二人で海や森で時間を潰す事が出来なくなってしまう。

「譜面の分かんねぇ所訊こうと思ってたんだけど、この学校にギターなんて無い。お前がピアノを弾けるなら話は別だったんだが、弾けないんだろ?」

そもそも、抱き締めた所でときめいた事を知られてしまうじゃねぇか。顔は見られないように出来るけれど、心臓がバクバクと大きな音を立てているんだ。気付かれないはずがないぜ。自分で悩んでは自分で答えるという行為を何度も繰り返した挙げ句、見付けた答えは“何とかなる”だった。
< 35 / 260 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop