ずっと前にね
それから俺たちは陽が暮れて、本当に二人っきりになるまで音楽について語り合っていた。ここが半音高いとか、ここはこの音が入っているとヴォーカルは音が取りやすいとか。
教員も皆、家路に付いて校内には俺と千里だけ。それだけで俺の恋に何か進展があるのではと期待に胸を膨らませていた。けれど、浮かれている俺とは裏腹に千里はきっと望んでいない。
俺とは先生と生徒、良くて愚痴を話せる友達。それ以上の関係を彼女が望んでいないと思うと少しだけ寂しくなった。これから先、遠慮せずに誰かに頼る事が出来るのだろうか。ちゃんと甘えて必要以上の苦しみを味合わずに生きていく事が出来るのだろうか。
俺が心配する事では無いとは分かっていたし、知っていた。けれど、心配せずにはいられないだろう。俺の近くにいる時はこうやって頼ってくれるようになったけれど、他の教師や生徒にはまだまだ堅い。防御の体制で心の扉を開けようとしていないんだ。教師としてではなく、一人の人として心配だった。
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