ずっと前にね
「か・・・ざ・・・っ、せん、せ・・・」

まだ震える彼女は俺にこう聞いてきた。柏崎先生も襲うのですか。そりゃそうだわな。人間不信にもなるわな。俺だって男だし、疑いたくなるわな。
千里の気が済むまで疑って良いぞ。それで千里の気が済むなら俺は一生疑われ続けたって良い。
もちろん、辛くない訳じゃない。今だってこの虚しさとも怒りとも言い難い複雑な感情をどこにぶつければ良いのか分からない。けれど俺を疑う事で千里が平常心を保ち、普通に暮らせるようになるのなら俺は喜んで疑われるさ。

「俺は手を出さねぇよ。こいつらに怒られるからな」

俺は自分の携帯に送られてきていた動画を見せた。緊張の糸がほどけかかっているのか、動画を見ると彼女は涙目になりながら決意していた。この恐怖を乗り越えて笑えるようにならなければと。自分のためにも大切な人のためにも乗り越えなければと。
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