ずっと前にね
だから、仕方のない奴だと言いたげな表情で笑っているんですよね。やっぱり先生は他の人とは違う。私を女としてではなく私として見てくれている。

「だからさー」

それからの車内は私の不安も小さくなって笑いが絶えなかった。小さい頃は女の子に間違えられて大変だったとか、お姉さんやお母さんにまで女装させられそうになっていたとか。
ふっと視線を下に落とすと、見覚えのある写真が私の目の中に飛び込んできた。昔、一度だけ本当の父が会いに来てくれた事があった。その時に撮ってくれた唯一の写真だ。
今でも私のアルバムの中に大切に閉まってある大切な写真。それがなぜ柏崎先生のお姉さんの車に飾られているの。

「思い出したか?」

柏崎先生は優しいような寂しいような笑顔で私を見つめていた。
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