誠の華−ヒルガオ−
「まぁ雪さんの気持ちも分かります。兎に角今は気持ちを切り替えてください。支度は整ったことですし、行きますよ」
山崎に背中を押され、先程の何倍も重く感じる着物をズルズルと引きずりながら揚屋の廊下を進んでいった。
ある一室の前で止まると山崎は私に一度だけ頷き、サッと姿を消した。
一度深呼吸をすると私は襖を開いた。
「新雪でありんす。どうぞご贔屓に」
短く挨拶を済ませると伏せていた面をあげる。
キラキラと妖艶な明かりを灯す雪洞が敵の姿を照らしていた。
「うひょ〜、こりゃあたまげたぜよ!こげな別嬪はお天道様ひっくり返したってなかな出逢えんぞ!!新雪や、儂の隣へ来てくれ!!」
猿の如く喚く長身もじゃもじゃ男とは対照的に、部屋の一番隅で胡座をかいている物静かそうな男に雪は目を奪われていた。
しかし男の誘いを断るわけにもいかず、雪は大人しくもじゃもじゃ男の隣に腰を下ろした。
「旦那様、お一つどうぞ」
徳利を持って男にしな垂れると、男は嬉しそうに鼻の下を伸ばして猪口いっぱいに入れたお酒を飲み干した。
「美味じゃ!!!やはり美女が注ぐ酒は格が違うのう!!!」
「おい坂本!会議に集中しろ!!ここ最近は壬生狼が彷徨いていて頻繁に会議ができないのはお前もわかっているだろう!!」