内実コンブリオ

「なんで俺が怒ってるんか、わかって謝ってるん?」



予想通り、体の奥から何かがばらばらと崩れていく音が聞こえた。

そして、あ、と気づいたのは、5秒も経った後のこと。

自分は理由もないくせに謝っていた。

ただ許してほしいが為に、何事も無かったかのように日々を装おうとするために。

なんて汚いことを考えていたんだろう。

案の定動けなくなった自分は、まるで小学生のように黙り込んだ。

相手を見ることも出来ずに俯いてしまう。



「…言うこと無いんやったら、俺行くで」

「あ…」

「何?」



思わず止めてしまったが、言いたいことなんてものはすぐには思いでない。

そんな自分を見かねて、先輩は呆れるようにして溜息をもらした。

今日だけで何回見たことだろう。

大きくも少し頼りなくも見える後ろ姿を、また見送ることになってしまった。

見送った後に気になることが一つ。

ため息をついた先輩の顔は怒っているというよりは、疲れているというように見えたのは気のせいだろうか。

そんな風に見えた先輩を呼びとめて、実は何かを言おうとした。

でもそれをまた言っては行けない一言だと身体が思ったのか、喉元に引っかかって出てこなかった。

いよいよ、これは本当にいけない。

当たり前のことだが、理由がなければ謝れない。

理由探しの旅をしなければ。

とはいっても、いったい何からすればいいんだろう。

とりあえず、ゆっくりできるときにでもじっくり考えるとしよう。

冷たい風が吹き荒れる中で、右手にぶら下がる弁当の重みに気付く。

あ、やっぱり弁当食べ損ねた。
< 104 / 393 >

この作品をシェア

pagetop