内実コンブリオ
「なんで俺が怒ってるんか、わかって謝ってるん?」
予想通り、体の奥から何かがばらばらと崩れていく音が聞こえた。
そして、あ、と気づいたのは、5秒も経った後のこと。
自分は理由もないくせに謝っていた。
ただ許してほしいが為に、何事も無かったかのように日々を装おうとするために。
なんて汚いことを考えていたんだろう。
案の定動けなくなった自分は、まるで小学生のように黙り込んだ。
相手を見ることも出来ずに俯いてしまう。
「…言うこと無いんやったら、俺行くで」
「あ…」
「何?」
思わず止めてしまったが、言いたいことなんてものはすぐには思いでない。
そんな自分を見かねて、先輩は呆れるようにして溜息をもらした。
今日だけで何回見たことだろう。
大きくも少し頼りなくも見える後ろ姿を、また見送ることになってしまった。
見送った後に気になることが一つ。
ため息をついた先輩の顔は怒っているというよりは、疲れているというように見えたのは気のせいだろうか。
そんな風に見えた先輩を呼びとめて、実は何かを言おうとした。
でもそれをまた言っては行けない一言だと身体が思ったのか、喉元に引っかかって出てこなかった。
いよいよ、これは本当にいけない。
当たり前のことだが、理由がなければ謝れない。
理由探しの旅をしなければ。
とはいっても、いったい何からすればいいんだろう。
とりあえず、ゆっくりできるときにでもじっくり考えるとしよう。
冷たい風が吹き荒れる中で、右手にぶら下がる弁当の重みに気付く。
あ、やっぱり弁当食べ損ねた。