内実コンブリオ



「聞こえたかってきいとるんですっ!!」


何故か逆ギレというものをされている。

自分はあなたの上にある資料に用があった。

しかし、いくら呼びかけても気づいてくれない為に、早く仕事に戻ることが出来ないでいた。

それを我慢していたのに。

泣いている彼女を心配していたのは本当だ。

それなのに、そんな風に声を荒上げられては、こちらとしても気分はよろしくない。

そもそも彼女はこれっぽっちも泣いてはいなかった。

片手にはスマートフォン。

そこからのびて耳に繋がっているイヤホン。

何をしていたかは知らないが、先程の声は様子をみる限り、泣いてはいなかったらしい。

そんな風に推測していると、彼女が耳からイヤホン外し、鋭い目つきをこちらに向けた。



「馬鹿にしとるんやろ!!」



はあ、と自分は一つ溜息を漏らす。

ああ、こんな台詞前にも聞いた。

どいつもこいつも一体何だというのか。

何だかその一言は、こちら側が馬鹿にされているのではないか、と常々思う。



「聞いとんのけ?!」

「…自分はあなたのことを馬鹿にもしてませんし、あなたが何をしたのかも知りません」



先程まで人が喋るのを遮ってまで、質問で攻めてきた彼女がここまで静かに聞いている。

不思議に思い、少し様子をうかがった。

黙り込み、俯いたままでいる。
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