内実コンブリオ
切り替えが早過ぎて、少し恐い。

そして、彼女はさも自分の事を知っている、とでもいう風な口ぶりで言った。



「名前何やったっけ?」

「あ、咲宮 華です!」

「はな、な!よろしく」

「よろしくお願いしま」

「ちょっとー、タメ口でいいってー。私たち、同期やで!」



そうだったのか、と密かに自分の中で納得していた。

同期の顔すらも覚えていなかった自分には、さすがに驚いた。



「てことで、このことは、ご内密に!」



そう一声叫ぶと、先程までの様に再び耳に蓋をし、その場にしゃがみ込んだ。

それに自分は少しばかりの尊敬の眼差しを送りつつ、職務に戻ることにした。

ちなみに尊敬とは、息の抜き方というのか、逃げ道の作り方というのか、とにかくそういう類のものだ。

機会があれば、見習おうと思う。

必要な書類を手にした今、そんなことを考えながら通路を颯爽と歩いていた。

この悩みがもともと無かったものの様に消え去ることは、きっとない。

だからこそ、それを受け止める為に休める努力もしなければならなかった。

何気ないこの出来事で気づかされた自分なのだった。

たった今、すっきりした気分だ。






第3章*第4話に続く。
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