内実コンブリオ


「森緒さん、この書類コピー、12部、頼む」

「森緒先輩!提出する資料完成したんで、確認お願いしますっ!!」

「森緒、悪いけど、お茶!」

「あ、俺もー」



少し前に書庫で出会った彼女が、次々とたくさんの人に呼ばれ、自分の目の前を行ったり来たりしている。

それを見て、密かに思ったことはは。



「…別人」

「聞こえとんで」

「ひ、いつの間に…」



お茶をいれに行っていたはずの彼女が、自分の真後ろにて凄んでいる。



「華、お茶いれるの、手伝ってくれやん?」

「え、でも、自分、今、作業ちゅ

「ものすごい数なんやんか。華やったら、そんなんすぐに出来るやろ?」



出来るはずがない。

彼女はまるで簡単そうに言うが、出来るはずがない。

今、必死に手を進めているのは、来月に近所の大学で行われる就職ガイダンスに使うパワーポイント、いわゆる映像資料だ。

その就職ガイダンスを兼ねた講義の講師に、我が社が呼ばれている。

そして、その担当をある意味押し付けられたのが、自分だった、というわけだ。

たまたま予定が空いていたのが、自分だけだった。

それだけの理由だ。

本当にたまったもんじゃない、というのがさっきからの自分の心情なのだった。

すると、おろおろとしている自分に対し、彼女が啖呵をきる。



「行くよ!」



え、と呟く猶予すら与えられずに自分は首根っこを掴まれ、引きずられていったのであった。

全く酷いことだ。



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