内実コンブリオ



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本当にたまたま、その瞬間を見たってだけやったんや。

今の部署の主な仕事は、デスクワーク、一日そんなことしとったら、体も鈍ってしまう。

体中の骨を鳴らす様に伸びをした時。

ほんの少し遠くで、大きく不安定に揺れ動いたものが見えた。

目をやってみれば、華ちゃんが机に手をつきながら、隣の社員さんと話しをしとった。

控えめに笑いながら。

その表情は堅く、苦しそうにも見えた。

立ち去っていくのを追いかけ、扉を開ければ、足元にはうずくまる華ちゃんがいた。

いつも都合がいいのかもしれやんけど、やっぱり、と思った。

それも思ったけど、それより強く感じたのは驚き、その次に苛立ち。

何のことでも調子悪い時には、相変わらず周りに知らせようとしやん。

そのうえ、上手いこと隠すから、こっちから見ても全くわからん。

大分体調が悪いのか、と問うと案の定聞き慣れた「大丈夫です」が返ってくる。

それから華ちゃんは、ずっと俺を見つめてくる。

何を考えてるんか全くわからん表情で。

でも、目が虚ろやった。

相当無理をしとるんやろう。

頼ればええのに。

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