内実コンブリオ
「華、大丈夫?」
「え?」
「さっきから息、むっちゃ上がっとるけど」
「うん。体力、無くて…昔っから…」
あはは、と笑ってごまかした。
すると、森緒ちゃんは顎に手を当て、何かを考える様な顔をして言った。
「相変わらず、とろいもんなー。華は」
「うっ…ど、どうせマラソン大会、万年ビリでしたよーだ」
「それはもっと頑張れよー!」
「ぐっ、うるさいなー!」
軽いショックを受けつつ、実は他愛もないこの会話が楽しくて仕方がなかった。
森緒ちゃんとは、心を預けて話す、打ち明けることができる。
何故だか、最近初めて会った気がしないのだ。
改めて顔を見合わせ、二人とも同じ様に笑った。
その時、上着のポケットに収まっていた携帯が震えた。
表示された名前は『角野 英吉』
森緒ちゃんに断りを入れてから、電話に出る。
『もしもし。打ち合わせのことなんやけどさ。今どこにおる?』
「屋上にいます」
『どこなん、それ?!』
電話から音が漏れる程に角野先輩の声が大きかった様で、森緒ちゃんが口に含んだおにぎりを噴き出しかけていた。
そして、人差し指を唇の前で立て、愛らしく片目を閉じ、自分へサインを出した。
「ひ・み・つ…だそうです」
『はあ?!教えてぇよ!てか、誰とおるん?森緒か!』
電話の向こう側で騒がしくしている先輩の声を聞きながら、可笑しくて屋上で二人、笑った。
見つけた、二人だけの秘密の場所。
第3章*第6話に続く。