内実コンブリオ
自分は、先に行く先輩の後ろをついて歩いた。

ズボンのポケットに手を突っ込んで歩くオールバックの角野先輩は、いつものように顔さえ緩んでいなければ、あちらの職の方に本当に、見える気がする。

そう、顔さえ緩んでいなければ。

斜め後ろ、約45度あたりから、そんなくだらないことを考えていた。

そう、顔さえ…



「え、なんか言った?」

「いえっ、何も!」



必死にごまかそうとした時には、既に小ミーティング室の扉の正面だった。

部屋の中に入ると、先輩はパソコンをセットし始めた。

プロジェクターも使わせてもらうことができる、とのことだ。

実に、有り難い。

ん?不思議に思い、先輩に問う。



「別にタイミングの練習なら、いつもの打ち合わせの感じでパソコン画面を見ながらすればいいんじゃ…」

「いや、最後こそリハーサルや!」

「それなら家でもしてますが…」

「パソコンの前でぼそぼそ練習するのと、前で大声出して、はきはき練習するのは違うやろ。いっぺん、やって見せてよ」



先輩はそう言うと、部屋の明かりを消した。

プロジェクターから伸びる光の先には、色濃い自作の映像資料が、白い壁に映し出されていた。
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