内実コンブリオ



何もしていないのに、栗山くんが驚いたように突然、小さく跳ねた。

そして、自分もそれに驚く。

彼を驚かせた正体とは、スマートフォンであったらしい。

栗山くんはズボンのポケットからそれを取り出すと、机の上に置き、片手で操作を始めた。

そのとき、不意に見えたものがあった。



「あ、えっと…その子、かわいいよね」



自分の何ともぎこちない話し方に、栗山くんは不思議そうに、顔をこちらに向けた。

「その子」ともう一度呟きながら、スマホ画面に指をさす。

すると、栗山くんは頬を赤く染め、汗を垂らしている。

その表情は、いまいちどういった感情を表しているのかわからず一瞬、自分は戸惑ってしまった。

残念ながら、口下手な自分は、そこから会話を続ける糸口が見けられなかった。

なんだか話の振り方を失敗してしまった気がして、恥ずかしさが込み上げた。

無意識に自分の目は、水が3分の1くらい減ったグラスを見つめだす。

そして、これもまた無意識のことで、唇を噛締めかけたとき。



「意外だね…!」



突然、大きな声を栗山くんが発した。

心なしか、生き生きしている。
< 211 / 393 >

この作品をシェア

pagetop