内実コンブリオ



咄嗟に出した自分の両手は、見事に先輩の両頬を包んでいた。

だが、完璧に被害をまぬがれることは、出来ていなかった。

幸いにも、顔を背けていたため、最悪の事態を避けることは出来ていた。

しかし今、自分は頬にキスされている状態である。

そのまま、動けずにいた。

パソコンで言う、フリーズ状態である。



『昨日のドラマ、泣いたわー』

『あー、あれな。あんな終わり方、切なすぎるわぁ』

『もう来週が気になって、しょうがないんやけど― 



遠くの方から、賑やかな声が聞こえてくる。

自分は今、廊下の壁で捕まっている。

動けない。

でも、この状況を見られることだけは、絶対に避けたい!

誰かに見られれば即、噂が広まってしまう。

それは、とにかく困る。

先輩の頬に当てていた自分の手を、ゆっくり離す。

これは、突然の不意打ちに遭わないようにするためだ。

そして、その手を、先輩の肩の辺りにへと持っていく。

そして、そっと押した。
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