内実コンブリオ
それでも硬直したままの自分を、栗山くんは不思議そうにして見ていた。
そして、終いには何を思ったか、自分の頬を人差し指でつつき始める。
自分はそれでやっとこさ、我を取り戻し、逆に変なスイッチが入った。
自分はその場に、勢いよく立ち上がった。
「お、お疲れ様!あのっ、お仕事だったんだよね。本当にお疲れ様」
「いやー、本当にごめん!業務の終わり際に、常連さんが来ちゃって。今まで長引いちゃったんだぁ…」
「全然っ。気にしてないよ。…大変だねぇ」
ああ、これだから自分は。
気の利いた台詞を、何一つ言ってあげられない。
おまけに、声が上擦るし。
心中で頭を抱えた。
「え…」
声を漏らした栗山くんの方を見ると、何故か驚いている様子だった。
「許してくれるの…?」
「え?も、もちろん」
自分がそう言うと、栗山くんは「ありがとう」と小さめに言った。
自分は不思議に思いつつも、返事を返す。
少しの沈黙の後、冷たい12月の風が強く吹いた。
「てかさ、先に店に入っててくれても、よかったのに。ずっと外にいたら、風邪引くよ」
「あ、たしかに…」
「えっ?!」
そうして、栗山くんに急かされつつ、ようやく二人で居酒屋さんに入ることができた。
第3章*第12話に続く。