内実コンブリオ
「あ、ありがとうございます…」
布越しにでも、わかってしまう。
優しく触れてくれているのもそうだけど、男の人特有のゴツゴツした感触が伝わってくる。
それに対してなのか、得体の知れない息苦しさに襲われる。
身体中の体温が、顔面に全て集まってくるようだ。
そんな時、自分の隣に誰かの気配を感じた。
森緒ちゃんだろう、とそっと振り返る。
もちろん、森緒ちゃんであることは、間違いではなかった。
しかし、彼女の表情は、恐ろしいほどに微笑んでいる。
何か、とんでもない勘違いをされている気がする。
違う、そうじゃない。
昔の楽曲にもそんなタイトルがあったけど、それも違う、そうじゃない。
確かに、鼓動は速い。
だけど。
だけど、やっぱり、これをときめきと呼ぶべきではない気がする。
いよいよ、わからない。
趣味の様なお気に入りとは全くの別物の好きって、どんなものだったっけ。
どんな感触だったっけ。
「もう平気?」
「え、あ、はい!ありがとう、ございます…」
ようやく解放された手の感触を、ただ静かに確かめていた。
第3章*第13話に続く。