内実コンブリオ



「お、おはよう。ごめんなさい。待たせた?」

「華さん、おはよう。全く待ってないから、大丈夫。行こうか」

「あ、うん」



この駅で待ち合わせたのには、別に大した理由があるわけではない。

ただ、この付近に大きめのショッピングモールがある、と考え付いただけだ。

ここでなら、うまく時間を潰せるだろう、と考えただけだ。

そこへ向かう途中にも、小さな雑貨屋さんを覗いてみたりした。

ぽっちゃりとした黒猫の置物だとか、ピンクと白の花があしらわれた髪留めだとか、ブルドックのぬいぐるみだとか。

店内を浮かれて見て回る自分の姿を見て、栗山くんは言う。



「華さんも、こういうの好きなんだね」

「ご、ごめん。退屈やったよね」

「ううん。むっちゃ楽しい」



そこで我に返り、一度に恥ずかしくなった。

何故か、声を押しころして笑う栗山くんに、少しムッとする。

普段から地味な自分には、似合わないとでも思われているのだろうか。

別にそれは、それでいい。

その後も、特に何も買わなかったが、可愛いものを堪能して店を後にした。

コンクリートの道路の上を、再び歩き始めた。
< 372 / 393 >

この作品をシェア

pagetop