内実コンブリオ
返事も反応も、返ってこない。
あら?聞こえなかった?
無言がかなり気まずい。
この場を立ち去ろうとも、足に氷の袋を当ててもらっているから動けない。
どうしようと戸惑っていると、今度は栗山くんがなぜか悩ましげな声をだす。
「…咲宮…華さ…ん」
「はい。」
この人はなんでこんなにやたら自分の名前を呼ぶんだろう。
一応返事はするけれど。
「あの日のこと…覚えてますか?」
わからない。どの日のことだろう。
「中一の、夏休み…に入る前」
一瞬でそれが映像となって蘇る。
わかった。あの日だ。
栗山くんとの思い出なんて、一つしかない。
「あの日も、今日みてぇに雨、降ってたっすよね」
わかった。この人が自分に思い出させたい日が。
また、しばらくの沈黙が訪れた。