精算と破壊の終焉
1────精算
フランス、コンコルド広場。
オディールは人混みを掻き分け、その人混みの渦中にある人物を目指す。
「すみません、すみません」
そう謝りながら前に進む。
人混みを抜けたところで、ふと顔を持ち上げると、そこには白い髪を美しく纏めた男が両手を大きく広げ身振り手振りを交えて、訴えていた。
「あれから3年という月日が経ちました!国家の重い税から解放された、貴君の未来は明るい!!国民公会は過去の国家政治から離れ、役目が不明瞭!!道標が必要です!!!!
この私が国民公会に道標を!!」
彼の演説に、女性の黄色い声を感じ、
ふとオディールが周囲を見渡すと、周りは若い女性ばかり。
「……え?」
つい、声に出てしまった。
その声に、演説をしていた男はオディールを見る。
フッとキザに笑ったのだ。
途端にあがる黄色い声。
なんだなんだとオディールが眉を顰め男を見上げていると、
掻い潜ってきた人混みから、突然伸びてきた手に背中のマントを引っ張られる。
「きゃあっ!!!!」
バランスを崩して、また彼女は人混みに戻ってしまう。
「ちょっと!私の服引っ張ったの誰な……ロードさん!!」
引っ張られた方へ人混みの中振り返る。
「しー」と人差し指を立てるロードがいた。
「こんな所で貴女何してるんですか?」
なんとか演説を傍聴しようとする人々より、2人は腰を落とし、屈んで会話をする。
ジト目を向けられて、オディールは咄嗟に口から言い訳がでる。
決してやましい事はないのだが、変に疑われるのは困る訳だ。
「記事です!!!
本日コンコルド広場にてロベスピエールの演説があると言うことで、噂通りかという…………」
「噂通り?何がです?」
目を細め睨みつける。
パァっとオディールは明るくなり、両手の平を胸の前に合わせ、演説する彼を思い出しながら話始める。
「とても紳士で、気品があって、説得力があり!
あと男前!
あとは、ジャケットは何時も彼自身がデザインしているそうで!その刺繍デザインは見事だと!
腰も低く……そして……」
オディールが説明をしていく内にどんどんとロードの表情が曇っていく為に、彼女が話す声は段々と小さくなり、遂には言葉が途切れる。
「思慮深いって……
うぅ……すみません」
オディールは肩を落とし眉を八の字にした。
オディールが手に持っていた書記用の手帳ノートを、ヒョイっと奪う。
「あぁっ……うぅ……」
ぱららっと読みながら、人混みを出ていく。
オディールは諦めそのロードの背中を、頬を膨らめて追いかけた。
ロードが人混みをやっと出ると、演説する彼を囲うギャラリーの背中を見る。
「すごいですね…演説でこんなに人を集めるなんて……腰が低い思慮深い人物とは程遠い」
フッと鼻で笑って、人混みを掻き分けやっと出てきたオディールの胸に、手帳を突きつける。
「ちょ……」
「満足いく演説は聞けましたか?」
コツコツとフランスの石畳を踏み、ロードは肩から掛けたコートをヒラヒラと風に遊ばせ歩いていく。
ロードはゆっくり歩くが、歩幅の違うオディールは少し足を速く動かし隣を歩く。
黒い髪が風に揺れる。
歩く彼の横顔、その紫の瞳は遠くを見つめていた。
何処までも人の心を見抜くような、それが、
オディールはとても苦手だった。
彼は自身の幸福理論に基づいて、このフランスを救おうとしているが……
その幸福理論は何とも歪だったからだ。
ロードの思い描くフランスの幸福理論は一個人の平和しか望んでいない所にある。
かといって、誰がどんな方法を用いても、全てのフランス国民が幸福になる道は、オディールには思い付かなかった。
「……不味いですね……このままでは国家の軍隊を敵に回す事になります……
オディール、フランス王党派に知り合いは?」
「……申し訳ありません」
オディールは首を横に振る。
ロードは口元に手を置き、遠くを見ていた視線を、少し足元に近づけた。
唇を噛んで、彼が焦っているのを感じれる。
いつも余裕を決め込んでいるロードがこれ程焦る事はとても珍しく、3年と共にこうして行動しているが、オディールは彼のこの表情を初めて見たのだった。
「先の演説……国民公会の独裁権を狙っている様でしたが……」
オディールも、ロードの苦い表情を見て、演説で気になったものを話し始める。
ロードは自身より頭がいい。だが、何か力になれればと口を開くが。
「私が彼なら、まず国民公会の魔法省を手に入れます……」
ロードはチラリと隣のオディールに視線を送る。
そして続けた。
「…もし魔法省の独裁権をロベスピエールが手にした場合……フランスとまともに殺り合うには、魔法と対等に戦える、錬金術師や魔法使いが必要になります。
しかし、魔法は国家で禁じられています。この街にまだ存在する、この公に『魔導士』と名乗れない逸材を……どう見つけ出せば良いのかが……問題になります」
ロードの言葉を耳にし、その瞬間オディールは俯いた。
決定打を打たせてはいけない事は分かっている。
ただしかし、彼女には思い当たるものがある様だ。
しかし気が進まない……そういった様子。
彼女は考えていることがすぐに顔に出るタイプだった。
ロードには、手に取るように分かることだろう。
勿論隣を歩く彼女のその様子をロードが見落とす訳がないのだが……
ロードはそれを視線に入れては、「参りました」と呟いた。
「あの魔法と対等に……
魔法は国家で禁止されてて、魔導士を探すのは困難ですけれど、錬金術師は比較的見付けやすいとおもうんですけれど……」
オディールは「ほら、ロードさんも反共和党左派ですし……」とつける。
「何故、国家が錬金術師を廃止しなかったか……錬金術師は術者の前に研究者です。
魔導士とは貪欲さに違いがあります」
「貪欲さに違い……?」
ロードの説明には理解が出来ないようで首を傾げる。
オディールの様な一般人には、当然その性質は理解が出来ないのは、ロードも分かっていた。
「はい。
私の様に自分の引きこもり研究生活に支障をきたさなければ、世界なんてどうだっていい連中がおおいんですよ」
「なんか納得……」
オディールは人混みを掻き分け、その人混みの渦中にある人物を目指す。
「すみません、すみません」
そう謝りながら前に進む。
人混みを抜けたところで、ふと顔を持ち上げると、そこには白い髪を美しく纏めた男が両手を大きく広げ身振り手振りを交えて、訴えていた。
「あれから3年という月日が経ちました!国家の重い税から解放された、貴君の未来は明るい!!国民公会は過去の国家政治から離れ、役目が不明瞭!!道標が必要です!!!!
この私が国民公会に道標を!!」
彼の演説に、女性の黄色い声を感じ、
ふとオディールが周囲を見渡すと、周りは若い女性ばかり。
「……え?」
つい、声に出てしまった。
その声に、演説をしていた男はオディールを見る。
フッとキザに笑ったのだ。
途端にあがる黄色い声。
なんだなんだとオディールが眉を顰め男を見上げていると、
掻い潜ってきた人混みから、突然伸びてきた手に背中のマントを引っ張られる。
「きゃあっ!!!!」
バランスを崩して、また彼女は人混みに戻ってしまう。
「ちょっと!私の服引っ張ったの誰な……ロードさん!!」
引っ張られた方へ人混みの中振り返る。
「しー」と人差し指を立てるロードがいた。
「こんな所で貴女何してるんですか?」
なんとか演説を傍聴しようとする人々より、2人は腰を落とし、屈んで会話をする。
ジト目を向けられて、オディールは咄嗟に口から言い訳がでる。
決してやましい事はないのだが、変に疑われるのは困る訳だ。
「記事です!!!
本日コンコルド広場にてロベスピエールの演説があると言うことで、噂通りかという…………」
「噂通り?何がです?」
目を細め睨みつける。
パァっとオディールは明るくなり、両手の平を胸の前に合わせ、演説する彼を思い出しながら話始める。
「とても紳士で、気品があって、説得力があり!
あと男前!
あとは、ジャケットは何時も彼自身がデザインしているそうで!その刺繍デザインは見事だと!
腰も低く……そして……」
オディールが説明をしていく内にどんどんとロードの表情が曇っていく為に、彼女が話す声は段々と小さくなり、遂には言葉が途切れる。
「思慮深いって……
うぅ……すみません」
オディールは肩を落とし眉を八の字にした。
オディールが手に持っていた書記用の手帳ノートを、ヒョイっと奪う。
「あぁっ……うぅ……」
ぱららっと読みながら、人混みを出ていく。
オディールは諦めそのロードの背中を、頬を膨らめて追いかけた。
ロードが人混みをやっと出ると、演説する彼を囲うギャラリーの背中を見る。
「すごいですね…演説でこんなに人を集めるなんて……腰が低い思慮深い人物とは程遠い」
フッと鼻で笑って、人混みを掻き分けやっと出てきたオディールの胸に、手帳を突きつける。
「ちょ……」
「満足いく演説は聞けましたか?」
コツコツとフランスの石畳を踏み、ロードは肩から掛けたコートをヒラヒラと風に遊ばせ歩いていく。
ロードはゆっくり歩くが、歩幅の違うオディールは少し足を速く動かし隣を歩く。
黒い髪が風に揺れる。
歩く彼の横顔、その紫の瞳は遠くを見つめていた。
何処までも人の心を見抜くような、それが、
オディールはとても苦手だった。
彼は自身の幸福理論に基づいて、このフランスを救おうとしているが……
その幸福理論は何とも歪だったからだ。
ロードの思い描くフランスの幸福理論は一個人の平和しか望んでいない所にある。
かといって、誰がどんな方法を用いても、全てのフランス国民が幸福になる道は、オディールには思い付かなかった。
「……不味いですね……このままでは国家の軍隊を敵に回す事になります……
オディール、フランス王党派に知り合いは?」
「……申し訳ありません」
オディールは首を横に振る。
ロードは口元に手を置き、遠くを見ていた視線を、少し足元に近づけた。
唇を噛んで、彼が焦っているのを感じれる。
いつも余裕を決め込んでいるロードがこれ程焦る事はとても珍しく、3年と共にこうして行動しているが、オディールは彼のこの表情を初めて見たのだった。
「先の演説……国民公会の独裁権を狙っている様でしたが……」
オディールも、ロードの苦い表情を見て、演説で気になったものを話し始める。
ロードは自身より頭がいい。だが、何か力になれればと口を開くが。
「私が彼なら、まず国民公会の魔法省を手に入れます……」
ロードはチラリと隣のオディールに視線を送る。
そして続けた。
「…もし魔法省の独裁権をロベスピエールが手にした場合……フランスとまともに殺り合うには、魔法と対等に戦える、錬金術師や魔法使いが必要になります。
しかし、魔法は国家で禁じられています。この街にまだ存在する、この公に『魔導士』と名乗れない逸材を……どう見つけ出せば良いのかが……問題になります」
ロードの言葉を耳にし、その瞬間オディールは俯いた。
決定打を打たせてはいけない事は分かっている。
ただしかし、彼女には思い当たるものがある様だ。
しかし気が進まない……そういった様子。
彼女は考えていることがすぐに顔に出るタイプだった。
ロードには、手に取るように分かることだろう。
勿論隣を歩く彼女のその様子をロードが見落とす訳がないのだが……
ロードはそれを視線に入れては、「参りました」と呟いた。
「あの魔法と対等に……
魔法は国家で禁止されてて、魔導士を探すのは困難ですけれど、錬金術師は比較的見付けやすいとおもうんですけれど……」
オディールは「ほら、ロードさんも反共和党左派ですし……」とつける。
「何故、国家が錬金術師を廃止しなかったか……錬金術師は術者の前に研究者です。
魔導士とは貪欲さに違いがあります」
「貪欲さに違い……?」
ロードの説明には理解が出来ないようで首を傾げる。
オディールの様な一般人には、当然その性質は理解が出来ないのは、ロードも分かっていた。
「はい。
私の様に自分の引きこもり研究生活に支障をきたさなければ、世界なんてどうだっていい連中がおおいんですよ」
「なんか納得……」