マリンシュガーブルー
「あの寅は、あなただから。あなたが私の寅になってよ」

 寅がいた彼の胸元を撫でた。もうあの寅がいないのが寂しい。あの寅は私が女になるのを見守ってくれていた。

「あの時も、俺ではなくて、寅ばかり見ていたな。ちょっと悔しかったんだ」
「だって、目の前にあって、目が合っちゃったんだもの」
「わかった。俺が寅になるから」

 彼が自分のシャツをざっと脱いだ。美鈴より先に素肌になった彼の勇ましい胸元。でも腕に傷痕はそのまま残っていた。
 そこだけが、出会った時のまま嘘偽りなく残ってくれているようで嬉しくなる。

 彼がふっと大人の顔で笑った。
 やっとわかった。女の愛も愛してくれる男は、愛する気持ちも支えてくれる。そうすると女はもっと愛に溢れる。
 尊とだからこそ、できたこと。それまでの恋になかったもの。尊とはもう恋じゃない。
 愛になっていく……。熱くほてっていく肌を一緒に貪りながら、美鈴はそう思っていた。
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