マリンシュガーブルー
 食後のアイスコーヒーを持っていったが、この日はデザートの注文はなかった。すぐに席を立ち、レジに向かってくる。

「ご馳走様でした」
「ありがとうございます……」

 先日はここで彼がジャケットを落とし、逞しい腕に入れ墨らしき模様と傷跡を見つけてしまった。
 あの時は怖かったけれど。不思議。今日は気にならない。いつも通りに迎え入れられていた。
 お札を預かり小銭の準備をしていると、彼がレジ横にある小さなスイーツをじっと見つめている。

「あの、チョコフレーク。お好きなのですか」

 こちらから声をかけると、彼がちょっと困った顔をした。

「いえ、その」

 戸惑い口ごもるその怖い顔が『好きだ』と言っている、美鈴はそう受け止めた。レジにあるアンケート用紙を差し出す。

「こちらのアンケートに答えてくださる女性の方、特にお子様連れの方にお礼に渡しております。お客様も是非」
「自分は男です。遠慮いたします」

 朴訥な言い方。でも丁寧な語り口、ヤクザさんてもっと怖い喋り方をすると思っていたから意外で、やっぱりあの入れ墨は若気の至りとかで思わず入れてしまったものだと思いたくなる。

「お子様連れのママさんの意見が欲しくて実施していただけです。お客様、いつも来てくださっているので是非。点数にマルをつけてくださるだけでもかまいませんから、こちらからもお願いします」

 開店して一年、気を緩めないためにも率直な意見を聞きたいと付け加えると、彼がそのアンケート用紙を手に取ってくれる。

 レジのカウンターで、美鈴に丸見えの状態でもさらさらっと各項目の五段階評価に○をつけてくれる。そして最後のコメント欄にも。

 とても綺麗な字を書く人。知性も窺えた。
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