マリンシュガーブルー
3.アラサー女子、自信をなくす
 雨降りが続くと、伸ばしている黒髪がうねってどうしようもない。
 車でお遣いにやってきた美鈴は、駐車場で降りて傘をさす。

「切っちゃおうかな」

 肩まで伸ばした黒髪をいまは後ろでひと束にしてくくっている。

 ラフなパンツスタイルばかりになってきた。弟の店を手伝うには、ひらひらした服は動きにくいから。

 大きな傘もOLだった時の愛用品で、オフィスビルに出向くに相応しい、お洒落なブランドもの。

 オフィススタイルのコーディネイトが懐かしい。その季節に合わせた、そのシーズンのトレンドの服をいち早く選んで着てオフィスフロアで働く。それが日常だったのに。

 恋人もいた。彼のおかげで、美鈴は『SV』まで昇格できたと思っている。でもその通りで、彼がいないと『なにもできない』ということに直面してしまったのだ。いままで『SV』として困り果てることがあっても、センター長だった彼がすぐに助けてくれた。

 それで仕事ができた気になっていただけ。彼のバックアップで生きていた、気がつかないうちに。美鈴自身が『勘違いしていた』と愕然としてしまう日を迎えたのには訳がある。恋人で最大の協力者で、フロアで一番の権威を持っていた彼が、その実力をかわれて東京本社へ栄転してしまったから。
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