マリンシュガーブルー
見えてしまったのも、訳がある。
東京本社の重役に彼が気に入られ、その重役に勧められた見合いをしたと、他の人伝いで聞いてしまった。それとなく彼に尋ねると『おつきあいでしただけ。本気ではない。彼女に俺は相応しくない、俺のような男には勿体ないお嬢様』だったと。
俺にとっては勿体ないお嬢様、では美鈴は勿体なくないから付き合っている? そう見下されたような気にもなった。いままで一緒に仕事をしてきて、ふたりで頑張って、毎日一緒に生き生きしていたのに。でも彼はもう美鈴がいるフィールドでの仕事は望んでいない。彼が望んでいるフィールドのランクが上がってしまっている。
彼はすでに、その女性を本当は気に入っている。誰にもその本心は見せていないけれど、ひっそりと、誰にも自分が悪く思われないように、田舎地方の恋人を切り捨てたなどという悪評が残らないよう、上手く身辺整理をしようとしているのだって……。
俺はおまえを東京へ一緒に行こうと誘ったよ。でもおまえが断ったんだ。そう仕向けている。
そして、美鈴も……。『東京でひとりになるかもしれない暮らし』なんて、自信がない。
彼と一緒に東京へ行くとなると、コンタクトセンターを辞めなくてはならなくなる。せっかく得た『SV』という立場を捨てることになる。彼についていって、だからって東京でおなじ会社で働けるわけがない。
呼ばれているのは彼だけなのだから。そうして簡単に捨てると『センター長、ありきの仕事をしていただけ』という姿だけが残ってしまう。彼のおかげであっても『SV』としての仕事はやり甲斐があって、いまでも好き。