マリンシュガーブルー

 さらに女としての不安もつきまとう。東京へと彼についていって、そこで今まで通りに愛してもらえるのか。そこで魅力ある女になれるのか。これから彼にはたくさんのチャンスが巡ってくる。そのチャンスを活かせるパートナーになれるのか。

 考えれば、考えるほど、自信をなくしていった。
 それでも。美鈴がなにもかも捨てて彼についていくと言って、この人、ほんとうに喜んでくれる?

『わかった。もう弟に任せて、あなたと一緒に行く』

 そう伝えたらどんな顔をする?

 そうか。良かった。ごめんな、実家のことなんか言って。でも、俺を全面的にサポートして欲しいんだ。俺もこの仕事いまがチャンスなんだ。美鈴、そばにいて欲しいんだ!

 そう言って!

『ほんとうに、弟に任せて出てきてくれるんだな。向こうでの暮らしはここより厳しくなる。大丈夫だな』

 センター長である上司の目だった。つまり……いま彼の目に見えている美鈴は『大事な彼女、女性』ではない。心より愛されていなかったことを知る。その時そこにいた遊べる花だっただけかも……。初めてそう思えた。

『うそ。やっぱり行けない。弟と義妹が心配だから。あの子達だけに家を押しつけられない』
『やっぱり、そう言うと思った』

 彼がネクタイを緩めてふっと呆れたような笑みを見せた。でも美鈴にはわかる。落胆の溜め息じゃない。安堵の溜め息だ。この女が思い描いたとおりに断ってくれたという安堵。
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