マリンシュガーブルー
「いつもありがとね。おたくの店先に置いてもらって、少しでも売れると助かるんよ」
「お役に立てているなら嬉しいです。弟がここのお醤油でなくてはとこだわって他のは使わないんです」

「嬉しいね。東京で料理人修行をして地元に帰ってきてくれた青年が、うちのもん気に入ってくれるなんて。地元でも知らん人も多くなってきたけんな。業務用で卸すばかりになっていつまで続けられるやろか思ってたんよ」

 老舗といえども、徐々に廃れていく。弟は料理人としてもそれを阻止したくて、なんとかこのお醤油を使って自分も役に立ちたいと思っているようだった。

 こちらご主人の許可を得て、小売り用の醤油瓶をレジ横で販売している。美味しいものに敏感な主婦がよく買っていってくれる。

 そんな地元の繋がりを、弟が少しずつ築いている。

「あら、美鈴ちゃんやないの」
「女将さん、こんにちは。またお醤油いただきにまいりました」
「いつもありがとね」

「こちらこそ。先日は奥様の集まりに、うちのカフェでランチ会をしてくださってありがとうございました。弟もはりきって作っていましたよ」

「お友達受け、とっても良かったわ~。東京帰りの若いセンスのお店やのに、味は懐かしくてちゃんと瀬戸内でね。わたしらでも美味しくいただきました。うちの醤油を贔屓してくれるんよ――と自慢してしもうたわ」

 他界した母ぐらいの女将さんに褒めてもらい、弟の店とはいえ、美鈴もほっこり嬉しくなる。
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