マリンシュガーブルー
食べることと甘いものには目がないといいたそうな彼がさっそく目をつけてくれた。
「テーブルに置いている醤油ですよね」
「江戸時代から続いている老舗なんです。アイスに使うお醤油は、お料理で使っているものとは少し異なる種のものですが、よろしければ是非」
すごく戸惑っていた。甘い物好きでも、変わりものには警戒する顔。
「私も最初にお醤油屋さんで勧められた時は『なにこれ』と思ったのですけれど……」
「……ですけれど?」
「お伝えしてもよろしいですか? なにも知らないでお試しになったほうがきっと聞くより美味しいと思います」
美鈴の返しに、強面の彼がびっくり目を見開いた。そういう勧め方するんだと言わんばかりの。
「お姉さんがそうおっしゃるなら、間違いないのでしょうね。わかりました。本日の食後にいただきます」
「ありがとうございます……。申し訳ありません……。意味深なオススメをしてしまって……」
「いいえ。気になるものは食べてみたいだけです」
また朴訥にそれだけ言うと、彼はいつもの表情のない顔つきに戻り黙ってしまった。
食事が終わり、食後のコーヒーとデザートを持っていく。
砥部焼きのカップに入っている醤油と、蜜黒豆を乗せたバニラアイスを置く。
「こちらのお醤油をお好みでかけて、お召し上がりください」
本当に醤油だといいたそうに、砥部焼きのカップになみなみと入っている醤油をじっと見つめたまま。
じいっと睨む大きな目、眉間に皺を寄せて疑い深く見つめているその顔が、怖い顔なのに……、彼のほうがお醤油を怖がっているみたいで美鈴は笑いたくなってきた。
最近、なんとなく。厳ついばかりの彼に表情があるとわかってきた。案外、愛嬌も窺えて微笑ましい。