マリンシュガーブルー
さっそく、新しいデザートをオーダーしてくれたので、弟も気にしている。
「けっこう慎重派なんだなあ。美味いかどうかが重要、外れたらどうしようって顔じゃね?」
まだ食べないでじっと醤油を見つめているので、弟はじれったそうにしていた。食えば美味いんだよ、貴方ならわかってくれるよと小さな声でけしかけてる。
醤油をかけるために添えている木製スプーンを、彼がやっと手に取る。醤油をバニラアイスにかけ、銀のスプーンに持ち替え、バニラアイスをやっとひとくち。美鈴と宗佑も緊張の一瞬。
彼のハッとした顔。見開いた目、あっと開けたままの口。そして、次から次へとお醤油をかけ始める。
美鈴と宗佑も顔を見合わせ、ほっとする。黙々と食べてくれる彼を見ていると、なんだか優しい気持ちになってくる。
反社会的な男性かもしれないのに。食べる時はどこか優しくて、真摯な眼差しと誠実な横顔……。渋い声と落ち着いた物腰はとても大人で安心感がある。なのに、入れ墨と傷跡……。
ほんとうにどのような人なのだろう? お客様それぞれ、気にすることもなかったのに。こんなにあの人を気にするなんて。
痛い恋をして痛い別れをしたばかり。男性に惹かれても、だからって飛び込むなんて思いきった気持ちは湧かない。ましてや、ヤクザだった場合どうすればいい?
彼はお客様。どのような人であれ、良きお客様。それだけでいい。