マリンシュガーブルー
ビジネスマンのグループは食事をしっかりとるけれど、カジュアルな男性二人はいつもコーヒーだけ。商談をしているようにみえた。
ビジネスマン達が食事を取る間の時間ぐらいで話し合いはいつも終える。最後に、交互にお手洗いに寄るのもいつものこと。彼等がお手洗いの行き来を始めたら、精算が近いという目安にしていた。
「仕事の話し合いでも、ここを食事ついでに使ってくれるなんてなあ」
有り難い、有り難いと弟は夜も回転率が良い繁盛にほくほくだった。
そのビジネスマン達が帰っていく。その後、いつもと違うことが起きた。
ラストオーダーの時間になって、彼がやってきた。
「こんばんは。まだオーダーいけますか」
美鈴は驚いたが、丁寧に迎え入れる。
「いらっしゃいませ。はい、大丈夫です。どうぞ」
空いている席はひとつかふたつしかなかったが、そこへ案内する。
「珍しいですね、夜に来てくださるなんて……」
また思わず、美鈴から話しかけてしまっていた。でも彼ももう自然に美鈴の目を見てくれる。
「一度、ディナータイムに来てみたかったんです」
「さようでございましたか。ありがとうございます」
にっこり微笑みかけたが、彼からの微笑みはない。でも美鈴のその笑顔をじっと見つめてくれるだけ。
視線がいつも以上に重なったので、今度は美鈴のほうがドキドキして逸らしたくなって……、でも、その黒い大きな瞳を見つめていたくなって離せなくて……。
「長い時間、立ちっぱなしのようですが大丈夫ですか」
また気遣ってくれる言葉に、美鈴の心がほろりと崩れそう。
「はい、慣れました」
「夜も、お姉さんと弟さんのお二人だけですか。大変ですね」
「お気遣い、ありがとうございます。いまの体勢でできるところまで姉弟でと話しております」
「そうですか……」
弟に妻がいて、彼女も手伝っていたけれど妊娠中――までは、お客様にわざわざ話す必要もないかと敢えて省いた。