マリンシュガーブルー
「先日、お姉さんが勧めてくださった醤油屋のアイスクリームもうまかったです。衝撃でしたね。また頂きにまいります」
美鈴にもやっと微笑んでくれる。彼が財布を取り出す。美鈴も気を取り直して、いつもの精算をする。でも、だめ。胸がドキドキしている。
なんだろう。どうしてだろう。何故、彼が気になってしまうのだろう。恋をしても、彼が礼儀正しく誠実そうに見えても、彼は入れ墨がある人。恋をしたところで……。
なのに胸が熱い。どうしようもなく昂ぶっている。頬が赤くなっていないだろうか。そう思いながら美鈴は、彼の大きな手に釣り銭を渡した。
「それでは、また」
肩越しににこりと微笑むその眼差しに、初めて男の色気を感じてしまう。
弟とふたり、ドアの外にまで出て彼を見送った。彼が徒歩で帰っていく。
「車、じゃないんだなあ。この近所に住んでいるのかな」
弟に言われ、美鈴も初めて気がつく。
「ランチタイムの来店が多いのに、ご近所? お昼からのお仕事? お昼までのお仕事?」
美鈴は首を傾げる。弟も首を傾げる。
「ヤクザさんだから不規則なんかな、いろいろ」
ヤクザだから。彼のライフスタイルにライフサイクルを深く追求してはいけない。熱いときめきと甘い疼きが一気に引いていく。
彼はお客様。それ以上はなにも考えてはいけない。改めて、美鈴は言い聞かせる。