マリンシュガーブルー
「あと十分経って誰も来なかったら、火を落とす。今日は閉めよう」
弟の決断に美鈴も頷いた。
そんな時、あのビジネスマンのグループがやってきた。
いつもより遅い時間帯だったので美鈴も宗佑も驚いた。
すぐにそれぞれの配置につく。
彼がいつも座るのは奥のテーブルが多い。帰りにお手洗いに行きやすいからかもしれない。
今夜はもうどのテーブルも空いているのに、やはり奥のテーブルに彼等が落ち着いた。
「いらっしゃいませ」
いつもどおりにお水を持っていく。
初めて、眼鏡のビジネスマン男性と目が合う。
「俺等のまえに、誰か来んかったかいな」
「本日は女性のお客様が少し来られただけです」
「ほうかいな」
見かけはエリートビジネスマンに見える男の口調が思ったより荒っぽい。でもこの地域では、浜育ちだとこのような言葉遣いの男性も割といる。それでも妙な胸騒ぎがした。
「ここのメシ、おもったよりうまいな。姉ちゃん、今夜も頼むわ。本日のディナーセットでな」
「いつもありがとうございます」
その眼鏡の彼が、美鈴を見てにやにやしている。
「姉ちゃん、いい声してるな。そばに来て酒を注いでもろうて耳元で囁いて欲しいわ。ドレスを着ても絶対に美人や」
「滅相もないことです。ですが、ありがとうございます」
あはは、真面目やな!
こちらだってからかわられているとわかっている。どうしたのだろう。今日の彼等はいつもの静かなビジネスマングループではない。妙に調子が良くて浮かれている?