マリンシュガーブルー
しばらくすると、いつものカジュアルスタイル、デニムパンツ姿の男性が今日は一人で来た。
同じように接客する、こちらもいつもどおりにオーダーはコーヒーのみ。
いつもは混雑時の来店なので気にならなかったけれど、店内に彼等だけになると異様な空気感を放っていた。
片方がガッツリ食事をして、片方はいつもコーヒーだけ。見た目も異なる。ほんとうに商談? しかも今回は、カジュアルスタイル側、デニムパンツの男性の表情が強ばっているように見えた。
スーツ側の男達に食事を持っていき、デニムパンツの男にコーヒーを届ける。あとはいつもどおり、キッチン前のカウンターに控える。
奥のテーブルは遠く、少しだけ観葉植物で隠れてしまう。
そろそろ閉店、なるべく彼等が見える位置でとレジ閉めの準備のためそこに立っていた。
デニムパンツの男が席を立った。お手洗いに入っていく。そろそろ終わりということらしい。
デニムパンツの男が出てくると、これもいつも通り、眼鏡のビジネスマンがお手洗いへ。
キッチン厨房にいる弟と顔を見合わせる。『そろそろお帰りだね』と。
だが眼鏡のビジネスマンがお手洗いに入ったかと思うと、すぐにドアを開けて出てきた。もの凄い形相! こめかみに青筋と言いたくなるほどの眼力で出てきた。
「おどりゃあ! どういうことや!! 話とちがうやんけ!」
デニムパンツの男の胸ぐらを掴んだ。美鈴はすぐにカウンターから飛び出す。
「お客様、どうされましたか」
美鈴がそう声をかけた途端だった。
「もううんざりなんだよ」
デニムパンツの男が、眼鏡のビジネスマンに突きつけたものは『拳銃』!
それだけで美鈴の駆けつける足が止まった。もう動けない。