マリンシュガーブルー


さらに怪しいのは食事が終わってさっさと精算して帰る日もあれば、その後の食後のコーヒーで一時間ほどぼんやりして居座っている時がある。その時の目つきが入ってきた客ひとりひとり確認するかのようで、来店してくださった他のお客様が気にしないかハラハラすることもある。

今日はどっち? さっと帰ってくれる日? それとも……。
そのどちらか判明する瞬間がある。
本日の港ランチを終えた彼へ、食後のコーヒーを届けた時にわかる。

今日はどっち?
アイスコーヒーのグラスを置くと、彼がメニューを開いた。それだけで美鈴は『今日はそっちか~』と密かに唸る。

「瀬戸内レモンのレアチーズケーキをお願いします」
「ありがとうございます」

笑顔でにっこりと伝票にオーダー追加を書き記す。
今日は長居の日、決定だった。そう彼が一時間以上ここでくつろぐ時は、必ずデザートのスイーツをオーダーするからそれでわかる。

今日も弟特製のレアチーズケーキをゆっくりと食べながら、雑誌を眺め、ランチ時間を含めて一時間半、滞在していた。そのうちにランチタイムが終わり、お客様も彼だけになった。

「あんな怖い顔して、甘いもの好きだよなー」

手が空いた弟がキッチンとフロアを仕切っているカウンターに出てきて、そっとひとこと。それは美鈴も感じていた。どの料理もよく眺めて、きちんと食べてくれる。そのうえ、デザートまで。週に多くて三回も来てくれる彼。弟も怖がって警戒しているけれど、心の中では料理人としてのやり甲斐を特に感じているお客に違いない。

< 4 / 110 >

この作品をシェア

pagetop