マリンシュガーブルー
6.雨に濡れた男の匂い
ここで抵抗しても、弟がなにかされても。ましてや二階にいる義妹が見つかっても困る。
ざあざあと聞こえる雨の音が、店の中の惨状を覆い隠していくよう。その雨の音に紛れて、この男にトイレに連れて行かれる。
「ね、姉ちゃん! やめろ、姉から離れろ!」
宗佑がカウンターから飛び出してきた。
「なんや、弟か。つまらん。でもええわ。こっちこい!」
今度は乱暴にブラウスの後ろ衿を掴まれ、トイレへと引きずられていく。
いますぐ離れろ!
トイレで犯されるのも嫌だけれど、だからって弟が撃たれるのも嫌。
宗佑、もういいから。あなたはパパになるんだから。莉子ちゃんが哀しむから、あっちに逃げて!
「彼女から離れろ!」
パニックで大騒ぎだった美鈴の頭の中に入ってきた凛としたその声で正気になる。
「なんや、おまえ!」
眼鏡の男と一緒に、トイレの前で振り返ると、そこに立ちはだかっているのは『あの人』! 名前も知らない、あの厳つい彼!