マリンシュガーブルー
彼が果敢に眼鏡の男へと突っ込んでくる。眼鏡の男が一瞬、美鈴を離し、彼に拳銃を構える。
え、仲間ではなかったの? そう思いながら……、でも、眼鏡の男が厳つい彼に向かって銃口を向け引き金を引いてしまう! パンという音がまた響く。同時に美鈴になにかがどんとぶつかってきて、その重みで後ろに倒れた。
ハッと目を開けると床の上に倒れている。目の前は真っ黒。勢いよく倒れたはずなのに、頭も痛くない。それどころかとても熱い感触。
雨の匂いに、男の匂い、埃っぽいジャケットの匂い――。黒いジャケットの胸にぎゅっと押し込められるように抱きしめられている。美鈴の頭を大きな手が抱き込んで、一緒にトイレ前のドアに倒れ込んでいた。
大きな胸に、熱い皮膚の温度が伝わってくる。それに男臭い汗の匂い、雨に湿ったジャケットの、長く着ている生地の匂い……。働く男の……。
逞しいあの腕をクッションにするようにして、美鈴をかばうように抱きしめて一緒に倒れている彼の顔を美鈴は見上げる。
険しい鋭い、見たことがない目線がもう眼鏡の男に向かっていた。
「どこのもんや!」
眼鏡の男の銃撃をなんとか除け、美鈴を奪い返してくれたが、またあの男が彼と美鈴のほうへと銃口を向けてきた。