マリンシュガーブルー
その途端だった。美鈴からさっと離れた彼が床に跪き体勢を直すと、ジャケットの下から何かを引き抜いた。抜いた勢いで翻るジャケットの裾、ジャケットの衿がさらっと開いて見える白いシャツ、そこに肩から黒いベルトがしてある。黒いホルスター、脇に隠してあったそれを彼も正面へと構えた。
彼も拳銃を持っている! しかも使い慣れたように構え、眼鏡の男へと躊躇わずに引き金を引いた。こちらは乾いた音はしない、静かに発射する音。向こうにいる眼鏡の男の手元でキンと響いた金属音。
「っく!」
弾き飛ばされる男の手、そして床にごろっと落とされた拳銃。厳つい彼が、まったく表情も変えず、静かに構えた銃で眼鏡の男が持っていた銃だけを狙って撃ち落とした。
そんな彼の、冷徹な雄々しい姿を美鈴は床に倒れたまま見上げるだけ。非現実的な彼の姿。ジャケットの下のホルスターから、拳銃を取り出して、この状況に焦るわけでも興奮するだけでもなく、ただただいつもの真摯なあの眼差しで銃を構えて……。でも、ラフに第二ボタンまで外していた衿元の下から、やっぱりあの異様な模様が見えてしまう。
それは眼鏡の男にも見えたようだった。
「どこの組のもんじゃあ! おまえが噛んでおったんか。そいつをそそのかしたんかっ!!」
もう眼鏡の男は思い通りにならかった怒りでぐしゃぐしゃの顔になっていて、整えていた黒髪も崩れて乱れていた。
兄貴も突然現れた厳つい彼を警戒して銃を構えたが、さきほどの彼の腕前を恐れてか踏み込んでは来ない。逆に様子をうかがっている。
「答えろや!」
厳つい彼はひと言も発しない。美鈴の前からも動こうとしない。銃だけを構えている。