マリンシュガーブルー
彼はこんな時も落ち着いて、表情を崩さない。その上、振り向かず、さっと黒いジャケットを脱ぐとそのまま美鈴の胸元にかけた。
「両手を挙げ、こちらへ向け。彼女から離れなさい!」
助けてくれた彼が、こんなふうに警察に捕まってしまうなんて……。やっぱり、こんなに頼もしくて優しそうな人でも? 肌にその絵模様がある限り、怪しい男と関わっていると逮捕されてしまうの?
「静かに立ちなさい」
彼が振り向かず、両手を挙げ、静かに立った。
「こちらへ向いて……」
その瞬間だった。彼がトイレのドアを開けて、そこへ入ってしまう。ドアも閉め、鍵を閉めた音。
あまりの素早さと大胆さに突入してきた戦闘服の警官も唖然としていた。
「しまった! 拳銃を所持した男がひとり、トイレから逃走!!」
突入してきた警官達が騒然とした。眼鏡の男も兄貴もデニムの男も制圧され、手錠をかけられ、連行されるところ。手の空いている警官達が外からは裏口へ走り、目の前で逃げられた警官はトイレのドアノブを引いたが開くわけもなく。
「ドアを壊します。よろしいですか」
美鈴に許可を求めたが、美鈴は声が出ない。それにあの人を逃がすべきかどうかにも迷いが生じていた。でも、あの人なにも悪いことしていない! 少なくとも助けてくれた!