マリンシュガーブルー
業を煮やした警官がそのまま拳銃を構え、ドアノブを壊した。ドアが開けられたが、もうそこには誰もいない。
換気用の窓が二枚とも器用に外され、開けられたままになっていて、そこから雨降る夜空が見えた。
「くっそ。やられた」
外も騒々しい。あっちにいった、あっちに回れ――と彼を追跡する声。
「……すけてくださったんです」
やっと声が出た。トイレから出てきた警官に美鈴は涙を流しながら告げる。
「あの人が助けてくださったんです。悪いことはしていません」
逃げられた警官がそれでも冷たく言い放った。
「しかし、拳銃を持ち、あの男達と関与していた可能性があります。あとでお話をお聞きします。大丈夫ですか」
警官がやっと手を差し伸べてくれたのに。美鈴が覚えている『大丈夫ですか』は彼の声のもの。ほっとした安堵したのは、あの声と眼差し、あの匂い。
パトカーの赤いランプが回る光が店を取り囲む。
黄色の規制テープも貼られてしまい、店の中には鑑識の警官がうろうろしていた。
二階の自宅では、銃声を聞いて怯えていた義妹が無事に待機していた。弟が抱きしめ安心させる。
それでも刑事がずかずかと上がり込んできて、事情を聞きたいという。
弟と一緒に美鈴も対応した。ダイニングテーブルで向きあって座り、状況を説明した。
美鈴が男に乱暴されかけたことを気遣ってくれたのか、また明日からということでその日を終えることができた。