マリンシュガーブルー
「いまの状態で、予想オーダー数を絞って抑えて、細々でもいいから維持して営業しよう」
弟の肩を撫でると、宗佑も涙を拭ってうんと頷き微笑んでくれた。
「ねえ、少しお金かかってしまうけど、この際、思い切って割り引きとかコーヒーとかデザートサービスのクーポン券をタウン情報誌に載せてもらおうよ」
「そうだな。また来て欲しい人から使ってくれたらいいもんな」
「じゃあ、早速、手配について調べてみるね」
テキパキとカウンターの片隅にあるパソコンを立ち上げると、そこで弟も美鈴をじっと見つめている。
「ありがとな、姉ちゃん。姉ちゃんがいてくれてほんと良かった。それに……無事で、良かった」
思い出したくなくて美鈴からも言えなかったけれど、弟も姉が女性として嫌な思いをしたことも気遣って、いままでそっとしてくれていた。
「大丈夫だよ。私も宗佑が撃たれなくて良かった。なにかあったら、莉子ちゃんがひとりになっちゃうじゃない。そんなの絶対だめ」
「うん。でも俺、助けられなかった」
その後に続きそうな言葉に美鈴は身構える。そして宗佑もそこで黙り込んだ。
あの人が来てくれたおかげで助かった。タイミング良く警察が来てくれたけれど、もし警察への通報が遅かったら、あの人を頼るしかなかっただろう。
でも弟はその先を言わない。言いたくないのだと思った。美鈴も言えない。あの人のおかげと姉弟で喜べないのは、あの人も、この店を荒らし悪行を働いた男達とおなじ世界にいる『ヤクザ』だから。
腕だけではなく、肩から胸に描かれた入れ墨も見てしまった。拳銃も持っていた。警官が突入したら逃げた。間違いなく、彼はヤクザ。捕まった男達と対抗する組織の男だったのかもしれない。