マリンシュガーブルー
美鈴も涙をこぼす目で、彼を見上げた。
「自分はこんな男ですよ。どんな男かわかったでしょう」
「わかっています。でも、……いや、行かないで」
あの厳つい彼が、頬を染めたようにして目を見開き、そのまま黙っている。
港の波の音がしばらく二人の間で聞こえるだけ。
やがて、彼が肩の力を抜いてふっと笑った。
「いま、一緒に来られますか」
「行きます」
即答にも厳つい彼が面食らっている。
「弟さんが……」
美鈴の背後、向こうへと彼が目線を馳せている。美鈴も振り返るが、そこに宗佑はいない。店だけが見え、弟は追ってきていない。
弟がここまで追ってきて必死に引き留めに来ない。そうしてくれる意味を姉としても感じ取ってしまう。
「弟には妻がいるので大丈夫です」
一人きりにするわけではない。そしてわかっていた。『きっと今晩、一晩だけ』。それが宗佑が許してくれた猶予だと思った。
その途端、彼に抱きしめられた。
「嘘だ、こんなの、嘘だ」
あなたが俺のそばにいるなんて。抱けるなんて。
男の泣きそうな声が耳元で響いた。
あの匂いのジャケット、その胸元に美鈴もしがみついた。
おいで。
彼に手を引かれ、港の道をゆく。どこへ連れて行かれるのか、なにも怖くなかった。