マリンシュガーブルー
厳つい顔で店に来て、眉間に皺を寄せて険しさを身体一杯に漂わせて、なのに、品の良い言葉遣いに、優しさを含めたその黒目。
「私、あなたのこと信じてる」
入れ墨がある全裸で迷っている男に囁いた。
彼がまた、美鈴を申し訳なさそうに見る。
「あなたがどんな人でも、私、あなたのことは信じている。だから、ここまで来たんだもの」
「美鈴、さん……」
優しい声が美鈴の胸を切なくかき乱す。
「教えて、あなたの名前」
彼が美鈴の目線まで戻ってくる。肩から胸元に描かれている寅の顔と流れる風の模様、そんな彼の両肩に美鈴も触れる。寅なんて、彼にぴったりのような気さえしてくる。
「名も知らない男にこんなにされて……」
ほどいて乱れた黒髪を彼が撫でてくれる。美鈴の目を見つめて、彼が呟く。
「たける、です」
「タケルさん」
名字まで教えてくれなかった。それでもいい。これであなたのこと呼べる。
「タケルさんのこと信じてるの。だから、私のことも信じて……。もう怖くないの、お願い」
自分からこんなねだってしまうだなんて。寅にもキスをして……。あなたにもキスをして。
「このまま、お願い」
彼が溜め息をついている。寅にキスをする美鈴の頭を肩先に掻き抱いて。
「……そう、いわれると、ほんとうにそうしてしまう」
どれだけ強いの? あなたの寅は。私の中に来て。
タケルの目にそう呟いていた。男にこんなに求めたことはない。別れてしまったあの人にさえ。自信のなかったはずの自分がこんなに熱く男をねだれるだなんて知らなかった。