マリンシュガーブルー

 少しだけ冷たい朝の海風。うっすらとした黄金の色が水平線にこぼれはじめる夜明け。
 彼が店の前まで送ってくれた。

「尊さん、素敵だった」

 別れ際、いつもの白いシャツに黒いスラックス姿の彼に美鈴はうつむき加減に呟く。
 彼の指がそっと美鈴の指に触れる。

「また会いに来るから、待っていて」
「でもお店にはもう……、弟が来ないように言っているから来られないでしょ」

 だから連絡先を教えて。そう言おうとしたのに。

「自分は誰とも連絡を取らないようにしているから。でも絶対に会いに来る」
「どうして連絡先、教えてくれないの」
「俺と関係している女とわかったら危険だから」

 そう聞いて、美鈴は愛おしく感じ始めていた彼の肩にある寅の顔を思い出し、再度の恐怖を感じた。

「また弟さんの店に迷惑をかけたくない」

 彼を通じて、あの店を危険に陥れたらいけない。美鈴もそれは絶対に避けたいことだった。それでも昨夜の弟はきっと『姉ちゃんはあの人を気にしていた。男として気にしていた』と感じ取っていて、だから『今夜だけだ』とばかりに送り出してくれた。気持ちが赴くまま行かせてくれた弟に、もう迷惑はかけられない。

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